【ブックレビュー】時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。

『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。』

Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4865280456/
honto:https://honto.jp/netstore/pd-book_31193773.html
著者:和田靜香
取材協力:小川淳也
イラスト:伊野孝行

装幀:松田行正+杉本聖士
定価:本体1700円+税
四六判並製/280ページ
2021年8月31日 第一刷発行
978-4-86528-045-6


Twitterで長文レビューをしたところ、筆者のかたに届いて、まさかの直接リプライをいただきました。おそれおおくもアワアワしてしまった私は、コミュ障爆発で「この本を出してくださってありがとうございます。」という根本的なところにお礼申し上げるという(でも本質ですよね)事態に。(ほんとうにありがとうございました…!)


その勢いのまま仕事の合間に読み終え、今回思ったことを文章にぶつけました。えいやーっ!

コロナ禍によって炙り出されたもの

 「コロナ禍によって炙り出された○○」という言葉を、耳にタコができるくらい聞きまくっているこの1年半です。でも、「その炙り出された」○○って、ただこれまで、コロナ以前は「隠されていた」「見えなくされていた」だけなのではないか?
 2020年2月。私は、友達と「なんだか新型肺炎が見つかったんだって」って、お酒を飲みながら居酒屋で話していました――それが、最後の飲み会になり、1年半以上、会えなくなるとは知らずに。当時、感染者が1桁出たら大騒ぎな世の中です。「まあでも、すぐに収まるでしょう」そんな楽観的な考えとは裏腹に、コロナはひたひたと、私たちの生活を蝕んでいきました。
 この1年半は、私たちに政治が生活に直結していると、教え込まれた1年であるとも思います。マスク配布、10万円給付、GoToキャンペーン(トラベル、イート、イベント)、持続化給付金、文化芸術の支援、オリンピック……。評価は人それぞれだと思います。メリット、デメリットそれぞれあったでしょう。でも、それぞれになんとなくの不信感を抱いてしまうのは、やはり「説明しない」ということがまかり通ってきていることが大きな原因なんだと考えています。ライターの武田砂鉄さんは、マスクが来なかったとネタにされていました。
 職場(図書館)での変化と言えば、一時期(2020年夏頃くらいまで)の「コロナ本」の流行です。出口が見えない中、私たちはどうやって自分たちの社会を舵取りしていけばいいのか。コロナが始まって間もない中で「コロナ後の社会」を語る様々な識者、わかっているように世の中を「斬る」「予言する」あり方に、私個人としては疑問に思っていましたが、それは私たちの不安の写し鏡なんだと思います。
 だからこそ私は、政治をゼロから知っていく和田さんと、元官僚として、政治家として行政と立法の何たるかをよく知る小川さんとが、「ゼロから、知らないところから、対話をしてお互いを知っていく」この本は、不安でがんじがらめになっている私たちの心をほどいていくようにも思いました。

ゼロからの政治問答

 和田さんと小川さんが対話をする中で新鮮だったのは、お互いに知り合うところから始まったということです。最初に和田さんが小川さんへの質問内容を考えるシーン。

〇政治家には友達がいますか?
〇政治家は威張りますか?
〇てんぐになりがちな政治家としての自分を抑えるには何が必要ですか?
〇政治家は金持ちですか?
〇地元と東京を行き来する生活は体力的に大変ですか? 昔の大名みたいです。
〇政治家「小川淳也」ではない時間はありますか?
 これら質問(って、言っていいのか?)を事前に送り、衆議院第二議員会館へ生まれて初めて行った。 
和田靜香;小川淳也.時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。(Kindleの位置No.154-155).株式会社左右社.Kindle版.

 このあとどんな展開になるんだろうと、ぐいぐいと引き込まれました。初対面では都知事選の話になり、「選挙は、毎日が砂粒を積み上げていくような感じがして、途方に暮れそうになるんですね。」(Kindleの位置No.186-187)と語る小川さんは、私が普段「誰にしようかな~」と選挙公報を見る視点と全然違っていました。こういう、人となりや考え方がわかる質問って、実は私たちはあまりキャッチしていないのかもと思いました。そりゃあ、新首相が「パンケーキ好き」とかそういうことはちょっと…と思うけど、いかにして市民の声を聴くか、とか、あるべき理想を語る姿は、政治家の醍醐味なのかなあと私は思うわけです。

無関心ではいられない税金の話

 この本で、私が一番関心を持った第3章を取り上げます。
 「税金は、国民から吸い上げたものでありまして……」といった総理大臣がいたとかいなかったとか(国会会議録検索システム:https://kokkai.ndl.go.jp/txt/119014103X00220160121/301)。←この前後を読むと、全体の説明の一部だから目くじらを立てるほどではない……のか? と思うところですが、言い方にはモヤっとする一言です。
 税金は少なければ少ないほどいいというのは私たち庶民の考え方でフツーだと思っていました。でも、いわゆる中流に位置しようとしているアラサーの私は、私よりも苦しい人もたくさんいるし、私よりも富める人も一定いる。みんなが納得して、熟議して物事を進める、それがいわゆる民主主義なのかもしれないですが、勉強すればするほど、難しいことだなあと考えてしまいます。特に、中流家庭というのは、3人きょうだいの真ん中にいるみたいで、収入が上の人にも下の人にも気配りをしないといけない(ように思えてしまう)。しかも私は年齢が(書きませんが)アラサーで、小川さんが見据える2050年には60歳±α……って、一番年金がもらえない可能性が高いじゃないですか(それじゃ困りますよ)。ちゃんと預けた分、分けてくれるんでしょうか。
 本書では、3章で紙幅を割いて、税金の話をしています(「なんか高い」では済まされない税金の話)。そこまでで人口動態のグラフにも触れられており、もう到底夢物語は見ないほうがいいんだなあって思っていたので、覚悟はできていました。要約すれば、互いの支えあいのために、税金を国に預けて、分配してもらう。そのために、今ある制度はいちどぶち壊して大幅な組み換えが必要だということ。自分たちのために、税金を支払う。そのために、私たち自身の手で、いまの仕組みに大ナタを振るう覚悟を持たなくてはいけないのだろうと考えました。
 でも、ひとたび政治家が税金の話題に触れようものなら、メディアやSNSをはじめ、様々なところで燃え上がっているのも普段から目にしています。税金が上がろうものなら批判し、税金を下げようとすると疑ったり、安心したり。それはひとえに、いままでの政治が作ってきた、税金を預けることへの不信感に依拠しているのだろうとも、この本を読んで思ったところです。

減税するけど「自助でよろしく」の社会がいいのか、それとも増税するけど「生活は保障します」の社会がいいのか、どちらがより私の不安と日本の不安が解消されていくのか? じっくり考えたい。(Kindleの位置No.1096-1097)

信頼回復は絶対に必要で、そのためには権力者だけじゃなくていろいろな人が政治に参加して、私たちを本当に代表する人々が切磋琢磨していかないといけないのかも。


市民と政治家の距離を再考する

 「The personal is political」という有名なフレーズがあります。「個人的なことは政治的なこと」と訳される言葉で、政治構造と個人のありかたを再定義しようという、学生運動やフェミニズムで使われてきた言葉です。
 おわりに で、「これは和田さんの成長物語」(Kindleの位置No.2968)と小川さんに言わしめるくらい、後の章になるにつれて、和田さんと小川さんの面談(と書いてデスマッチと読む)がどんどん激しさを増していくのが読んでいてわかります。最後まで、その熱に圧され、やることをほっぽって読書をしていました(そしていま、これを書いています)。
 一方的に言いたいことを言って、会見を終えたり「安心・安全」と言い切ってみたり、そんな政治家ばかりが目立つ中において、対話によってそれぞれの意見を織り交ぜていく、そんなひとがいるのだなあと感心しました。そして出来上がった1冊が、この本だと思います。
 市民と政治家の距離を再考するきっかけになった1冊でした。同時に、権力を掌握するためではなく、小川さんのように話を聞いて言葉にする政治家が、一人でも目立って、増えてこないかなあと、思ったのでした。
 何度か読み返して、またまとまったら書きたいなあとも思いました。